DXという言葉が注目されるようになって久しいですが、一方で企業におけるDXの取り組みは必ずしも進んでいるとは言えない状況にあります。
DXの取り組みが進まない理由として、DX推進における様々な課題の存在が指摘されています。
この記事では、DXの推進において発生しやすい課題と、その解決策について解説します。
DX推進の現状
注目が集まるDX
DXという言葉は2004年に初出のものではありますが、特に日本においては近年急激に注目を浴びるようになりました。
その背景として、2018年に経済産業省が報告した「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」の存在があります。
同レポートは、「日本企業はデジタル化の遅れにより、2025年には競争力を確保できない状況に陥る」と警鐘を鳴らしました。
このレポートが注目を集めたことで、世間はDXという言葉を知るようになりました。
また、別の側面ではデジタル企業の伸張が挙げられるでしょう。
GAFAMをはじめとしたデジタル企業は、既存のビジネス分野にまで手を広げており、例えば音楽業界や出版業界などは既存ビジネスを破壊された例といえます。
あらゆる分野の既存企業はシェアを奪われる危機感を持つようになり、特に先進的な経営者の中には、デジタル企業への対抗策として自社もデジタル化を進めなければならないという意識を持つ方もいます。
DXの取り組みは道半ば
一方で、実際には企業におけるDXの取り組みは道半ばです。
経済産業省が2020年に報告した「DXレポート2」では、DXへの取り組みが未着手である、もしくは一部での取り組みにとどまっているといった企業が全体の95%を占めるという結果となりました。
特に多いのが、DXが部分的な試行にとどまってしまい、実際のビジネスへの適用ができていないというパターンです。
DXのための実証実験やPoCは比較的取り組みやすいのですが、実業務の改善や新規ビジネスの実行となると格段にハードルが上がります。
実証実験やPoCでDXの可能性を見極めたら、全社的にDXを展開していくことが大切ですが、現実的には中々うまくいっていない状況であるといえるでしょう。
DX推進における課題
それでは、DX推進はなぜうまくいかないのでしょうか。
「DXレポート2」では、DX推進におけるよくある課題を示しています。
以下では、そのうち特に重要と考えられるポイントをご紹介します。
デジタル人材不足
DX推進のカギは、人材にあります。
一方で、デジタル人材の不足は深刻な状況にあります。
日本ではIT人材がベンダー企業に偏っているという状況があり、事業会社が自社でIT人材を確保するのが難しい状況にあります。
ただでさえ不足状況にあるIT人材のうち、ビジネス・デジタルの両面の知識をもった人材を確保することは並大抵ではありません。
また、高価値のデジタル人材を採用しようにも、全社一律の人事制度が障害となり、待遇に差をつけることが難しい現実も存在します。
経営層の危機感の欠如
DXの推進においては、ビジネス部門とIT部門の協働が重要です。
一般的に日本企業の組織体系では、ビジネス部門とIT部門は別組織として設置される傾向にあります。
そのような状況下で両部門が協力するためには、経営層以下のトップレベルからの取り組みが絶対条件となります。
しかしながら、経営層においてITやデジタルを理解できる人材が少ないこと、そしてデジタル化の取り組みの重要性を長期的な視点で認識しにくいことなどから、経営層からはDX推進の号令がかかりにくいのが実態です。
大半の取り組みが試行レベルにとどまる
DXという言葉が普及した当初、「スモールスタート」の重要性が説かれました。
これに伴い、多くの企業では実証実験やPoCという形でDXの取り組みを始めました。
残念なことに、このような部分的な試行でDXの取り組みが終了してしまう企業が多いという調査結果があります。
これは、形だけでもDXに取り組まなければならないという意識からおこるものであり、DXによる本質的な改善につながる例が少ない状況を表しているといえます。
課題の解決策
それでは、上述したような課題はどうやったら解決できるのでしょうか。
以下では、それぞれの課題についての解決策を提案します。
待遇改善とジョブ型人事制度の拡大
デジタル人材の獲得は、最も難しい課題といえるでしょう。
この課題を確実に解決することを難しいですが、その中でもできることはあります。
例えば、デジタル人材の待遇改善が一つの案です。
企業規模が大きくなるほど難しいですが、人事制度を改定し、専門的な技能を持った人材の給与テーブルを別とすることなどが考えられます。
また、同時にデジタル人材に対してジョブ型人事制度を適用するとよいでしょう。
日本企業の多くは、採用時に職務を明確にしないメンバーシップ採用を行いますが、デジタルのプロを採用する以上はそのスキルと実績に対して待遇を与えるべきです。
近年では、大手金融機関もデジタル人材に対するジョブ型人事制度を採用するなど、変化の波が訪れています。
CIO・CDOの役割・権限の明確化
経営層におけるITの理解力の低さは、日本企業の弱点です。
これを補うために、CIOやCDOといった職種を設定し、企業のITやデジタル化に対する責任と権限を与えるようにするとよいでしょう。
自社内でビジネス・経営・ITの知識を備えた人材がいることがベストですが、社内ではCIO、CDOを担える人材が存在しない場合は、外部から獲得することも考えられます。
DX成功パターンの策定
DXにおけるスモールスタートは重要な考え方です。
過去と違う試みをするためには、失敗を許容しつつ、失敗時の損失を最小化する必要があります。
しかし、スモールスタートはあくまでもスタート地点での取り組みにすぎません。
DXという取り組みが浸透しつつある現在において、次に考えるべきはDX成功パターンの策定でしょう。
実証実験やPoCを行う中で、企業内でのDXの知見が収集されていくはずです。
その中で、取り組みがうまくいったケースとうまくいかなかったケースを分析し、自社に適した取り組みについて検討することが大切です。
そのうえで、DXの取り組みを横展開し、自社内で拡大してくことが、DXを本質的な改善につなげるために重要です。
まとめ
この記事では、DXの取り組みにおけるよくある課題とその解決策について紹介しました。
DXという言葉自体は一般化し、多くの企業がDXの取り組みを開始しましたが、本質的な改善に至っている企業は少ない状況にあります。
これは、裏を返すと今からDXの取り組みを進めたとしても遅くはなく、また取り組み次第で他社と差をつけることが可能であるともいえるでしょう。
今からでもDXの取り組みについて検討を始めることをおすすめします。