システムを導入する場合に避けたいのは、せっかく導入したシステムが役に立たず、無駄な投資に終わってしまうことです。
システムを導入するきっかけは様々ですが、よくあるのが「時間がなく必要に迫られた」ケースや、「他社も導入しており良い評判を聞いた」ケースなどで、このような無駄な投資は発生しやすいといえます。
自社にシステムを導入する際は、システム化の全体像を整理し、ビジョンを固めたうえで実行することが大切です。
システムは導入しただけでは価値を生まず、長期間にわたって運用することでその投資を回収できるものです。
確実に有効なシステム投資とするためには、その目的や全体像の整理がポイントとなります。
この記事では、特に中小企業におけるシステム化における構想検討に焦点を当て、解説を行います。
システム化構想の概要
システム化構想とは何か
システム化構想とは、システム導入の最序盤に実施すべき工程であり、システム化の全体像を整理するものです。
具体的には、システム化の範囲、スケジュール、予算といった、システム化の前提条件の検討を行い、これらを整理します。
システム化構想は、企業の事業計画と密接に関連します。
現代ではビジネスの実施におけるシステム活用はほぼ必須となっており、事業の予算やスケジュール、収益性を検討するにあたってはシステムの必要投資額や開発スケジュールを前提とする必要があります。
いくら早期にビジネスを実施したいと考えていても、システムがなければ実現できませんし、事業の投資対効果を計るのもシステムに掛かる費用が導き出せなければ不可能です。
よって、事業計画とシステム化構想は両輪の輪の存在といえるでしょう。
なぜシステム化構想のフェーズが必要なのか
上述した通り、システム化構想は企業の事業計画を立てる上で実施が必須です。
さらにシステム開発の観点でいえば、適切なシステム化構想の実施は、効率的で無駄のないプロジェクト遂行における鍵でもあります。
システム開発プロジェクトにおいて、最も避けるべきは方針変更による手戻りの発生です。
システム化は、上流から下流に流れるウォーターフォールと呼ばれる段取りで行われることが一般的ですが、ウォーターフォール開発は上流工程で大まかな内容を決め、下流に行くにつれて徐々に具体化していくのが特徴です。
よって、後工程で方針変更をしてしまうと、これまでの作業がすべて無駄となってしまいます。
まだ具体的な作業に入っていないシステム化構想のタイミングでは、いくらでも方針の修正を行うことができます。
ですので、システム化構想の段階で「悔いの残らないように」検討しきることが、システム開発プロジェクトをうまくすすめる最大のコツとなります。
中小企業におけるシステム化構想のポイント
特に中小企業においては、システム導入においてシステム化構想を行うケースは少ないのではないでしょうか。
自社にシステムを導入する場合、一般的にはまずITベンダーと会話すると思います。
ITベンダーの営業は、どうしても自社製品の販売や自社への発注獲得が目標となりますので、ITベンダーの営業と話すだけでは自社にそのシステムが本当に有効なのか、また事業全体で考えた時に効果があるのかといった一つ上での視点での検討は難しいのが実情です。
よって、まずはシステムの導入を検討する最初の段階に、システム化構想というものがあるということを意識することが大切です。
それだけで、システム化の有効性や投資回収の実現性が大きく変わってきます。
システム化構想は、基本的に自社でやる必要があります。
ただし、システム化構想の経験が少ない場合は、必要に応じてコンサルタントの支援を受けることも検討するとよいでしょう。
システム化構想の実施事項
以下では、システム化構想として具体的に実施が必要な要素について解説します。
経営方針とシステム化目的の精査
システムの導入はそれ自体がゴールではなく、ビジネス上の目的があって実施するものです。
まずは、その目的を定める必要があります。
システム化の目的は様々ですが、基本的に経営方針に沿ったものとなります。
例えば、自社の弱点である販路の拡大のためにECサイトを設立したり、製造効率を向上させるためにAI技術を導入したりといったように、経営方針を実現するための手段としてシステムを用いることが一般的でしょう。
まずは、そのシステムで何を実現しようとしているのかを明文化します。
ポイントは「明文化」することです。
文章の形で残すことで、目的が途中でずれることを防ぎます。
以降の作業においては、都度、システム化の目的に反したことをしていないか確認し続けることが大切です。
発注先のITベンダーにもシステム化の目標を共有し、自社のビジョンを伝えることがよいシステムを作るうえでのポイントです。
現行業務(To-Be)の整理と課題抽出
基本的にシステムは業務プロセスを実施する中で必要となるものです。
システム化の目標が定まったら、現行の業務を分析し、可視化します。
システム導入後の世界を描くために、まずは現行業務を整理することが大切です。
もちろん、新規にビジネスを実施する場合、現行業務は存在しませんので、この工程はスキップとなります。
この作業で大切なのは、システム化の目標と同じく文章に残すことです。
現行業務であれば、従業員は作業について深く理解しているでしょう。
マニュアルなどがないケースもあります。
しかしながら、システム開発は自社とITベンダーの共同作業です。
ITベンダーとのコミュニケーションのためにも、だれが見ても理解できるように文章の形で残すことが大切です。
現行業務を資料化する際に適しているのは、業務フロー図を利用することです。
業務フロー図は、業務の流れを図で示したもので、縦軸に作業者、横軸に作業の流れを記載し、箱の中に作業内容を記載して矢印で作業順序通りつなぎ合わせていきます。
現行システムを利用して業務を実施している場合は、どのタイミングでシステムを利用しているかも明記します。
加えて、現行業務の課題を洗い出します。
課題の抽出は、担当従業員などへのヒアリングを中心として行います。
ヒアリングを行うことで、例えばシステムに入力できない情報があり手作業で管理していたり、作業に時間がかかり出荷が遅れていたりといった課題が現れてきます。
システム化においては、これらの課題を解決することを意識します。
スコープとシステム導入後の姿(As-Is)の定義
次に、システム化を行う範囲(スコープ)を定め、システム導入後の姿を定義します。
スコープを定義する最もわかりやすい方法は、現行業務フローに赤枠などでスコープを示すことです。
図としてシステム化の範囲がわかるため、認識齟齬が生じにくい方法です。
図だけでは表しきれない内容については、箇条書きなどの形でシステムへの要求事項として整理します。
例えば、細かい内容として「現行システムでは1つの企業に対して配送先を3つしか登録できず、不足する場合は手作業で管理している」という課題があれば、「1つの企業に対して任意の数配送先を登録できること」というのが要求事項となりますね。
最後に、システム導入後の姿を、現行業務と同様に業務フローの形で示します。
業務フロー中には、新システムを利用する場面についても記載し、新システムで目標通りの業務が実施できることを確認します。
これらの資料は、ITベンダーに対して新システムに対する要望を伝える上で、とても重要なものとなります。
予算の検討と費用対効果の想定
システムの姿が見えてきたら、次に予算面の検討を行います。
システム化には当然費用が掛かりますが、その費用を効果が上回るから投資を行うわけです。
よって、想定の費用と想定の効果を算出し、比較を行います。
システムの想定費用は、付き合いのあるITベンダーに依頼するとよいでしょう。
これを情報提供依頼(RFI)と呼んだりもします。
上記で作成した大まかなシステムのイメージをもとに、ITベンダーに概算費用の算出を依頼します。
効果の想定については、どうしても自社で行う必要があります。
例えば、想定される売り上げの向上や、想定される作業負荷の減少量などをもとに検討します。
費用対効果の算出に適しているのは投資回収期間やIRR(内部収益率)です。
投資回収期間は、その名の通りシステムの投資額を何年でペイできるかをしめすもので、IRRは投資額がどの程度の利率で回収されるかを示すものです。
例えば、銀行からの借り入れ金利をIRRが下回る場合などは、投資すべきではないシステムと判断できます。
これらの指標を使いつつ、システム投資が妥当な経営判断であるかを検討します。
システム化範囲に関連する技術調査
最後に忘れてはならないのが、システム化範囲に関する技術調査です。
過去、システム投資を行った時から技術は進歩しており、より効率的で効果的なシステムが存在するケースもあります。
特に、先進的な技術を利用するケースなどで重要な要素ですので、ITベンダーやコンサルタントなどに相談しながら技術動向を調査するとよいでしょう。
まとめ
この記事では、中小企業におけるシステム化構想のポイントとして、システム化構想の重要性とその作業内容について解説しました。
中小企業においてシステム化構想を実施することはあまりないと思いますが、実はシステム化構想は重要な作業です。
これを機に、次にシステムを導入する際にはシステム化構想を実施してみることをおすすめします。