人手不足や働き方改革を背景に、物流業においても業務の効率化やDXへの取り組みが求められています。
近年では、発達著しいIT技術を活用した物流におけるDXの取り組みが進んでいます。
この記事では、DXの一例として物流における経路最適化の検討について解説を行います。
物流の現状
まず、物流の概要と課題について解説します。
物流とは
物流の範囲は多岐にわたります。
陸運であれば、大型トラックや鉄道等による長距離輸送の世界、宅配車等を用いて短距離の輸送を行う配送の世界があり、海運あれば海外からの輸入における大型船舶での輸送や航空機輸送、国内の海上輸送など、様々な領域から構成されます。
いずれにせよ、物流の目的は生産地から消費地へ商品や製品・部品などを運ぶことにあります。グローバル経済化が進んだ現代においては、物流は生活の基盤を支える要素です。
物流における課題
物流は経済活動における重要な要素ですが、近年では様々な課題が指摘されています。
物流における最大の課題は人手不足でしょう。
物流業の労働環境の悪さやそもそもの労働力不足を背景に、物流業界に人が集まりにくくなっています。
近年では、長距離輸送と短距離配送のどちらも人手不足にあり、ピーク時には期日に遅れてしまうといった物流上の問題が発生するなど、深刻な状況にあるといえます。
さらに、Amazonなどに代表されるように、テクノロジーを活用した大型小売業者の登場により、物流業界にも変化が求められています。
物流業への圧力により、物流業界の経営状況は悪化しています。
その解決策としてDXに期待が集まっており、物流業のDX推進は経済産業省をはじめとした国家的な取り組みとして検討が進められています。
DXにより、物流における生産性の向上が期待されています。
物流経路最適化について
この記事では、物流の課題解決策の一つとして経路最適化について解説します。
物流経路最適化とは
物流経路最適化とは、数学的なアルゴリズムを用いて物流コストや必要人員などを最小化するような輸送方法を導き出すことを言います。
このような問題は、一般的に組み合わせ最適化と呼ばれます。
どの商品や製品を、どの輸送方法で、いつ、どの配送元からどこへ運ぶのかなどをパラメータとし、各パラメータを変動させることでコストや必要人員がどのように変化するかを観察します。
そして、コストや必要人員が最小となるパラメータを探し出します。
組み合わせ最適化問題を計算するためのアルゴリズムは古くから研究されていますが、特に一意に解が求まらない非線形問題や混合整数最適化問題を中心にコンピュータの処理リソースが大量に必要であることがネックでした。
近年ではコンピュータの高性能化や、クラウドの登場などによりコンピュータリソースを調達しやすくなっており、物流経路最適化を実施できる範囲が広がっています。
物流経路最適化の効果
上述した通り、人手不足や外圧などを背景に、物流における業務効率化が求められています。
物流経路の見直しと最適化を行うことで、同じ商品の運搬であったとしてもより少ない人員で業務をこなせるようになる可能性があります。
また、物流に必要となる船舶や鉄道などの賃料の節約や、陸上輸送に必要となる人員コストの削減も期待することができます。
特に長距離輸送ではその輸送コストは膨大となるため、経路最適化の効果は大きいといえるでしょう。
物流経路最適化の検討フロー
以下では、物流経路最適化の検討フローについて解説します。
対象業務の選定
まずは、対象業務を選定します。
物流経路最適化に向いている業務として、パラメータが少ないような業務が挙げられます。
具体的には、数十台程度から数百台程度のトラックや船舶等で実施するような輸送であれば、十分に最適化が実施できる可能性があります。
また、最適化を行うべき業務としては、経路作成業務が専任化しており知識が共有されていないような、いわゆる「暗黙知化」しているようなケースです。
コンピュータの活用を行っていない場合、人手で物流経路や配送計画を検討していると思いますが、その検討手法について社内で共有することは難しく、担当者の退職などにより知見が失われるリスクがあります。
計画をコンピュータで行うことで、担当者の知見を可視化し受け継ぐことができます。
委託先の検討
一般的に、自社で組み合わせ最適化問題アルゴリズムを構築して物流経路最適化を行うことは困難です。
知見を持った委託先を探したうえで、検討を委託することが妥当でしょう。
大手ITベンダであれば、このような最適化問題に精通した部隊を抱えています。
また、組み合わせ最適化に活用できるパッケージソフトウェアを開発している企業もあるので、検討を行うとよいでしょう。
委託先の検討が困難である場合は、委託先の選定なども含めて外部コンサルなどを活用することもできます。
シミュレーションの実施
委託先を選定したら、まずは組み合わせ最適化アルゴリズムを用いてコンピュータ上で物流経路の検討を行います。
組み合わせ最適化を行う際には、入力するパラメータを調整しながら、最も良い成果がでるようにチューニングを行います。
コンピュータで満足が行く計算結果が出たら、現在人手などで実施している物流計画と比較を行い、最適化による効果を算出します。
目的に応じて、コストや必要人員、輸送日数などを比較し、最適化による効果を測定します。
実業務への適用
最適化が十分に有効であることを確認したら、実業務への適用を行います。
組み合わせ最適化アルゴリズムへ入力する商品数や配送元などのパラメータは、その時々に応じて異なりますので、担当者がパラメータを入力できるようにシステムを構築します。
このシステムは物流計画を立てる都度、最適化の処理を行うことになります。
一般的に組み合わせ最適化には長時間の計算時間が必要となりますので、業務遂行に支障がないようにコンピュータリソースを確保する必要があります。
まとめ
この記事では、物流におけるDXの取り組み事例として、物流経路の最適化の取り組みについて紹介しました。
物流における人手不足は深刻な課題ですが、より少ないリソースで輸送を実現するための最適化は有効な解決策となるでしょう。