Web上でECショッピングを行ったり、コールセンタへ連絡をしたりするときに、チャットボットを目にする機会が増えたと感じる方は多いのではないでしょうか。
第3次AIブームに伴い、問い合わせ対応などを目的として多数のチャットボットが導入されました。
そして、その多くは一定の効果を上げています。
この記事では、特に小売業を対象として問い合わせ対応チャットボットの導入について解説します。
チャットボットとは
まず、チャットボットの概要や技術の進捗状況について紹介します。
チャットボットの概要
チャットボットとは、対話(chat)とロボット(bot)の2つを組み合わせた造語であり、一般的にはコミュニケーションツールとして用いられます。
チャットボットは入力された文字や音声に対して、その意図を認識して自動的に回答を行います。
これにより、コールセンタ業務に代表される問い合わせ対応や注文処理などを実現することができます。
AIブームとともに注目されるようになったチャットボットですが、必ずしもその中身にAIが用いられているわけではありません。
チャットボットの技術イメージとしてはGoogleのようなWeb検索エンジンが近く、入力内容に最も近い結果を出力するものになります。
その際に入力と出力の近接度を判定するための方法として、AI関連技術である機械学習を用いたり、場合によってはキーワードマッチングのような初歩的な技術が用いられたりします。
現状のチャットボットの技術レベル
上述した通り、チャットボットのキモは入力内容に対する出力結果がどれだけ意図通りになるかによります。
現在のAIでは、人間のように曖昧な問い合わせ内容から最適な答えを返答するような技術は実現されていません。
チャットボットが実現できるのは、ある程度の範囲内の回答を、一定の精度で出力することです。
当然、うまく回答ができないケースもありますので、問い合わせ対応を100%チャットボットに任せることは多くの場合で不可能です。
よって、チャットボットの導入事例では、定型的な回答をチャットボットに任せ、チャットボットが対応できないような複雑な内容についてはコールセンタのオペレータにエスカレーションするように設計することが多いです。
チャットボット導入の効果
それでは、チャットボットの導入によりどのような効果が期待できるのでしょうか。
以下で代表的な効果について紹介します。
問い合わせ工数の削減
最もわかりやすい効果が、問い合わせ工数の削減でしょう。
Webサイト上でコールセンタへの連絡先と同じページにチャットボットを設置し、誘導することでコールセンタへの入電数を減らすことができます。
それにより、コールセンタのコストカットにつなげることができるでしょう。
特に、若い世代を中心に電話で問い合わせることに対する障壁が上がっており、チャットボットが用意されていればそちらを利用したいユーザも増えています。
若者向けのサービスなどにおいては、問い合わせ窓口としてチャットボットを導入することで一定の効果が見込めるでしょう。
顧客接点の増加
チャットボットを導入することにより、顧客接点の獲得につながります。
これまで、多くの企業サイトでは資料請求や問い合わせのためにはメールフォームに入力する必要がありました。
これを面倒に感じ、接点獲得まで至らないというケースは多々あります。
チャットボットという比較的問い合わせしやすい媒体を入り口として、オペレータへの引継ぎを促したり、顧客情報の取得を目指したりすることができます。
コンバージョン率の向上
ECにおけるコンバージョン率向上は重要な課題です。
コンバージョン率向上はすなわち売り上げの向上につながります。
Web上での購買においては、購入情報の入力時に必要な入力量の多さを手間に感じたり、途中でわからないことがあったりすることで離脱するケースが散見され、対策が必要です。
購入画面や商品情報画面にチャットボットを用意することで、入力内容や商品に関する内容の問い合わせ対応を実現させ、ユーザの離脱を減らすことができます。
チャットボット導入の流れ
以下では、チャットボットの導入の流れについて解説します。
対象範囲の選定
まず初めに、対象範囲について選定します。
上述のように、チャットボットは万能ではなく限られた範囲の回答を一定の精度で行うことしかできません。
少しでも回答精度を上げるために、チャットボットの対象範囲はできるだけ限定することをおすすめします。
はじめてチャットボットを導入する場合は、例えば時限的なキャンペーンサイトなどを対象にトライアルをしてみるとよいでしょう。
チャットボットの活用には与える学習用データやトレーニング方法などのコツがありますので、いきなり重要な業務に投入するのではなく、試験的に運用をしたうえで本導入を目指すことをおすすめします。
製品の選定
次に、製品の選定を行います。チャットボット製品として、多数のパッケージが販売されています。
また、スクラッチでチャットボットを作成する場合でも、Microsoft AzureやAWS、Google Cloudなどでチャットボット用のAPIが公開されているため、完全に一からチャットボットを作成する必要はありません。
チャットボットの製品選定において、返答精度はもちろん重要ですが、チャットボットは学習データを与えてはじめて動作するため、選定時に精度を比較することはできません。
評判や実績等で判断するしかないのが実情です。
その他の観点としては、チャットボットの学習の容易さや、特にパッケージを利用する場合はユーザーインタフェースに注目するとよいでしょう。
チャットボットの優位性は、手軽に問い合わせできる点にありますので、その利点を損なわないようなインターフェースを利用者に提供することが大切です。
学習用データの収集
特にAI型のチャットボットを動作させるためには、学習用のデータを収集し、チャットボットに入力することで返答パターンを学習させる必要があります。
例えば問い合わせ対応チャットボットを作る場合であれば、問い合わせ対応のQ&A集などが学習用データとして適しています。
大抵の場合は、コールセンタ等での対応用にQ&A集を作成していると思いますで、学習データの収集はそこまで問題にならないはずです。
一方で、例えば製品情報を提供する目的でチャットボットを構築するケースで、製品のQ&A集などが存在しない場合は、学習用データを一から手作りしなければなりません。
学習用データの作成はそれなりの負荷となりますので、チャットボットの導入検討にあたっては学習用データの有無について事前に確認をすべきです。
学習とトライアル
チャットボットは、入力に対して正しく結果が出力されたかをフィードバックすることで、精度を改善させていきます。
チャットボットに学習用データを投入した当初は、一般的に高い返答精度は期待できません。
一定期間、社内や限られたユーザなどを対象にしてトライアル期間を設け、精度を向上させる必要があります。
チャットボットの構築スケジュールを検討する場合は、必ずトライアル期間を設定するべきです。
また、トライアルを行った結果、チャットボットの精度が十分に向上しないケースも想定されます。
この場合、さらに精度向上を行う選択肢もありますが、場合によっては今回の対象範囲ではチャットボットの導入が不向きであったという結論に至る可能性もあります。
リリースと継続的な改善
チャットボットの精度が一定に達したのち、一般ユーザ向けにチャットボットをリリースします。
しかし、チャットボットはリリースした後も継続的に精度を改善していくべきです。
トライアル時と同様に、入力に対して正しく返答ができているかを利用者にフィードバックしてもらい、精度を向上させていきます。
また、返答精度が一定に達しない場合、チャットボットがユーザの期待値を下回り、マイナスの効果となってしまう可能性もあります。
チャットボットの導入後、一定ごとに効果を確認し、あまりにも効果を発揮しないようであれば公開の取りやめも検討するべきです。
まとめ
この記事では、主に小売業を対象としてチャットボットの導入について紹介しました。
人手不足の状況もあり、チャットボットへの期待値は上がっている状況にあります。
そのような状況下でも、チャットボットができること・できないことを見極め、効果を発揮するように設計することが大切といえます。